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奈良地方裁判所 平成9年(行ウ)5号 判決

原告

川田賢司(X)

右訴訟代理人弁護士

北岡秀晃

石川量堂

被告

奈良県知事 柿本善也(Y)

右訴訟代理人弁護士

川村俊雄

以呂免義雄

右指定代理人

荒木一義

福田将人

阪本守

河合淳一

事実及び理由

第四 争点に対する判断

一  本件条例一〇条三号本文の解釈基準について

本件条例は、「県政に対する県民の理解と信頼を深め、県民の県政への参加を促進し、もって公正で開かれた県民本位の県政を一層推進することを目的」として、「県民の公文書の開示を求める権利」を保障し(一条)、本件条例の解釈及び運用に当たっては、右権利を「十分に尊重するもの」としている(三条)。これを受けて、本件条例一〇条の規定の形式も原則公開を基本とするものであるが、他方、法人等又は事業を営む個人(以下「事業者」という)の事業活動は、社会の公正な競争秩序の維持と社会経済の健全な発展のため、十分に尊重、保護されなければならず、県が保有する公文書を開示することにより、事業者の事業活動の自由が侵害されたりすることがあってはならない。そこで、事業者の権利・利益の保護と公文書開示請求権との調和を図り、原則公開の例外として事業者の事業に関する情報であって、開示することにより、事業者の競争上又は事業運営上の地位、社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められる情報を非開示として定めたのが本件条例一〇条三号本文の趣旨である(乙七参照)。

以上からすれば、同号の事業者の「事業運営上の地位その他正当な利益が損なわれると認められる」という要件は、将来予測であって立証が困難であるという点を考慮しても、情報の内容・性質(事業者の当該事業の性格、規模、内容等は、情報の性質を検討するに当たって考慮されるものであると解される)等に照らして、開示することにより、事業者の「事業運営上の地位その他正当な利益が損なわれる」蓋然性が客観的、具体的に認められることを要するものと解するのが相当である。

二  本件銀行名等について

1  本件銀行名等(振込先銀行名、口座番号)は、前記争いのない事実等に記載のとおり、飲食業者の県に対する飲食代金(食糧費として支出されたもの)の請求書中に記載された情報であり、支出負担行為決議兼支出命令書及び支出負担行為兼支出内訳書中の本件銀行名等も請求書中の記載を転記したものと解される。

2  まず、本件銀行名等は、飲食業者と銀行等との間の預金契約の存在を表し、その預金口座を特定する情報であるから、本件条例一〇条三号本文の「法人等に関する情報」又は「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に当たる。

3  次に、開示することにより、事業者の「事業運営上の地位その他正当な利益が損なわれる」蓋然性の有無につき検討する。

本件銀行名等は、前述のとおり、飲食業者が顧客に対して飲食代金の振込先を知らせるために請求書に記載した上、顧客に交付した情報であって、これらを開示したからといって、飲食業者の振込先である特定の預金口座の存在が明らかになるにすぎず、飲食業者の預金内容等が明らかになるものではないこと、同情報は、新規の顧客を含めて当該飲食業者を利用する者であれば、誰に対してでも、通常、開示されている情報であると解されること、本件公文書の他の部分の開示により、県の機関が当該飲食業者を利用した事実自体は既に公開されていることからすれば、本件銀行名等を開示することにより、事業者の「事業運営上の地位その他正当な利益が損なわれる」客観的、具体的な蓋然性があるとは認められない。

被告は、本件銀行名等の開示により、債権執行の差押えの対象財産の探索などの目的で利用される点を事業者の「正当な利益が損なわれる」蓋然性の一つとして主張しているが、本件銀行名等が飲食業者の利用者一般に交付される請求書に記載されている青報であることからすると、飲食業者の預金口座の存在が明らかになることによる不利益は事業者において甘受しているものと解され、事業者の「正当な利益が損なわれる」蓋然性があるとは認められない。

また、被告は、開示により、法人等に一旦損害が実際に発生してしまうと、その回復がほとんど不可能であるなどとも主張するが、本件銀行名等の開示により事業者に損害が発生することは考え難い。

なお、奈良県の「情報公開事務の手引」(乙五)は、本件条例の解釈運用基準として「競争上又は事業運営上の地位、社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められるもの」とは、<1>生産技術上のノウハウに関する情報、<2>営業上又は販売上のノウハウに関する情報、<3>経営方針、経理、人事等の内部管理に関する情報、<4>社会的評価、社会的信用等に関する情報をいうとして、<2>営業上又は販売上のノウハウに関する情報の具体例として、預金口座のほか、取引先名簿、顧客名、製造原価計算書、販売計算書、設備投資計画、資金調達計画を掲げている。そして、預金口座の内容を公開することが右にいう正当な利益を損なうであろうことは当然であるけれども、飲食業者が顧客に飲食代金の振込先を知らせるために請求書中に記載した預金口座番号は、預金口座の内容とは異なり、営業上又は販売上のノウハウに関する情報に当たるとは認められない。

4  以上によれば、本件銀行名等は、本件条例一〇条三号本文に該当するとは認められない。

三  本件印影について

1  本件印影は、前記争いのない事実等に記載のとおり、飲食業者の県に対する飲食代金(食糧費として支出されたもの)の請求書中の飲食業者名下に押捺された情報である。

2  まず、本件印影は、特定の個人又は団体の同一性を表示するものであり、特定の個人又は団体が真正に作成した文書であることを証明することによって、社会生活上ないし取引関係において重要な役割を有するものであることから、本件条例一〇条三号本文の「法人等に関する情報」又は「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に当たる。

3  次に、開示することにより、事業者の「事業運営上の地位その他正当な利益が損なわれる」蓋然性の有無につき検討する。

本件印影は、前述のとおり、飲食業者の奈良県に対する飲食代金の請求書中に押捺された飲食業者の印影であり、請求書の作成名義人の氏名等とあいまって文書の作成名義人の同一性を表示し、真正に作成した文書であることを証明するという意味を有するほか、特殊な情報が含まれているわけではないこと、本件公文書の他の部分の開示により、飲食業者名については既に明らかになっていることからすれば、本件印影を開示することにより、事業者の「正当な利益が損なわれる」具体的、客観的な蓋然性があるとは認められない。

したがって、本件印影は、本件条例一〇条三号本文に該当するとは認められない。

第五 以上の次第であるから、本件非開示部分を非開示とした被告の本件処分は違法である。

よって、原告の本訴請求を認容して本件処分を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 石原稚也 田口治美)

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